SATREPSプロジェクト(ピロリ菌感染症関連死撲滅に向けた中核拠点形成事業)
胃がんは、世界における部位別がん死亡率第3位であり、アジア諸国における発生が約75%を占めています。ブータンは、世界で3番目に胃がん死亡率の高い国であり、ほとんどの場合、進行がんとして発見されるため、胃がんは死の病と考えられています。また、胃がん発症の最も重要な原因は、ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)感染症ですが、我々が現ブータン首相で内視鏡医でもあるLotay Tshering首相と2010年以来現地で共同研究を行ってきた結果、ブータンにおけるピロリ菌感染率は、約75%と非常に高く、30歳以下でも約8割が感染していることが示唆されました(山岡らWorld J Gastroenterol. 2013)。さらにブータンに蔓延するピロリ菌は非常に毒性が高いこともわかっています(山岡ら Scientific Reports 2016)。
ブータンにおけるピロリ菌感染率を低減させることが胃がんの予防策として重要であると示唆され、感染者を診断して除菌治療する一次予防の確立が、胃がん死を減らす最重要対策であると推察されました(山岡 Nature Review Clinical Oncol. 2018)。しかし、我々が予備研究として、同国におけるピロリ菌除菌療法を行った結果、抗菌薬耐性を認めないにもかかわらず、半数近くが除菌不成功となり、大きなEvidence practice gapが存在することが明らかとなりました(山岡らAsian Pac J Cancer Prev. 2020)。この要因として、医療従事者や被験者のピロリ菌と胃がんに関する知識のなさが、服薬コンプライアンスの低下を導き、低除菌率につながった可能性も示唆されました。
そこで、本事業では、迅速にピロリ菌診断や抗菌薬耐性を測定できるシステムの構築、ハイリスク患者のスクリーニング法の有効性を検証し、さらに服薬管理アプリの導入なども加味した、今後の同国における国家規模での「Screen and treat」政策への足掛かりとしたいと考えています。特に、迅速にピロリ菌診断や抗菌薬耐性を測定できるシステムは、事業期間内に、ブータン人の手でブータン国内で製造できるような人材育成も行っていく計画です。
胃がん対策のもう一つの柱は、内視鏡検査による早期がん発見・治療(二次予防)であすが、先進国においても、胃がんの早期発見は難しく、この分野では日本が世界の最先端を走っています。本事業開始当時、ブータンには、旧世代的な内視鏡機器が4台しか稼働しておらず、早期胃がん検診の精度そのものが低いことが予想されます。そこで、本事業では、ブータンにおける内視鏡システムの拡充、国際的なガイドラインに準じたチェックリストの導入、日本式内視鏡技術の教育研修による実装効果を検証します。
本研究開発において、将来的な展望である全国的な胃がん検診の始動に向けた飛躍が期待できます。より効果的に、全国的な社会実装を実現できれば、ピロリ菌感染症による消化器疾患等の疾病負荷の解消、医療コストの削減、さらに将来的には、胃がん関連死の低減へと資することが期待できます。
<関連するトピックス>
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大分大学とブータン王立ケサル・ギャルポ医科学大学との大学間交流協定締結式
<本SATREPS事業に関するリンク>
JICAプロジェクトページ(外部リンク)
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