フィリピンでの大規模狂犬病調査結果を国際学術誌に発表しました
子犬からの感染が狂犬病死亡の主要原因
~フィリピンでの大規模狂犬病調査結果を国際学術誌に発表~
大分大学医学部医学科微生物学講座・グローカル感染症研究センターの西園晃教授と、同センター客員教授であり長崎大学熱帯医学研究所ケニアプロジェクト拠点の齊藤信夫准教授らの研究グループが、フィリピンでの3年間の前向き患者登録研究から得られた結果を国際学術誌“Frontiers in Microbiology”に発表しました。この研究により、これまで不明であったヒトへの狂犬病感染の原因動物が、成犬ではなく子犬であることが示され、研究グループは全世界での子犬へのワクチン接種レジメの見直しを強く提唱しました。(*1)この成果は、狂犬病予防の方針や、動物咬傷への意識を大きく変えることに役立つものであり、今後の狂犬病予防に大きなインパクトを与える可能性があります。
フィリピンは年間200人から300人が狂犬病で亡くなる狂犬病高蔓延国です。新型コロナウイルス感染症のパンデミックの影響で、動物の狂犬病ワクチン接種率が低下し、狂犬病の発生がさらに増加しています。その結果、現在フィリピンでは、年間100万人以上の人々が動物咬傷後の狂犬病発症予防のためにワクチンを接種しており、非常に大きな経済的負担となっています。
これまで狂犬病患者に関する詳細な検討は行われておらず、原因動物の年齢など詳細は分かっていませんでした。齊藤信夫准教授、西園晃教授らの研究グループは、狂犬病患者に関し、感染原因を詳細に検討する研究をフィリピンで実施しました。3年間で151例の狂犬病患者を登録し、この研究は世界でも最も大規模な前向き研究になります。この研究結果から、子犬が狂犬病の最も主要な原因動物であることが確認され、これは以前に同グループがフィリピンで行った動物狂犬病の大規模研究で得られた結果とも一致したものでした。この事実は、子犬への狂犬病ワクチン接種方法に問題があることを示唆しており、同研究グループはワクチン接種方法の早急な見直しが必要であることを提唱しています。さらに、この研究では、動物咬傷後に発症予防法を受けない最も一般的な理由として、軽度の咬傷であるために自己判断で治療の必要がないと考えるケースが多く、それが狂犬病による死亡につながることが多いことが明らかになりました。
狂犬病は世界中で蔓延している恐ろしい感染症です。特に、蔓延国への渡航の際はリスクを認識し、動物とのむやみな接触を避けるよう注意が必要です。
2019年には、フィリピンを訪れたノルウェーの女性が、助けた子犬にかまれた後、狂犬病で亡くなるという悲しい事例が発生しました。動物に咬まれた場合、たとえ軽症であってもすぐに咬傷部位を15分以上洗浄し、現地の動物咬傷外来を受診しましょう。狂犬病ワクチンや狂犬病グロブリンの接種は、発症をほぼ100%防ぐことが可能です。これらの対策をとることで、狂犬病のリスクを大幅に減少させることができます。
本研究は、独立行政法人国際協力機構(JICA)と日本医療研究開発機構(AMED)が連携して実施する地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)(課題名:フィリピンにおける狂犬病排除に向けたワンヘルス・アプローチ予防・治療ネットワークモデル構築)で行われました。2025年からはJICAが実施するSATREPS後継プロジェクトが開始予定であり、大分大学は今後も長崎大学と共に、フィリピンの狂犬病対策に貢献していきます。
*1 “Puppies as the Primary Causal Animal for Human Rabies Cases: Three-Year Prospective Study of human rabies in the Philippines”
発表論文
雑誌名 : Frontiers in Microbiology
タイトル : Puppies as the primary causal animal for human rabies cases: three-year prospective study of human rabies in the Philippines
著者 : Nobuo Saito*, Karren L. Inton, Jaira D. Mauhay,Rontgene M. Solante, Ferdinand D. Guzman, Kentaro Yamada, Yasuhiko Kamiya, Mariko Saito-Obata, Beatriz P. Quiambao, Takaaki Yahiro, Kazunori Kimitsuki, Akira Nishizono (*筆頭著者、責任著者)
掲載日 : 2024年7月8日
DOI : 10.3389/fmicb.2024.1425766
URL : https://doi.org/10.3389/fmicb.2024.1425766(外部サイトにリンクします)